
「電気ショックを繰り返しても、次のリズム確認では再びVFが認められる。除細動の方法を変えることで、救命につながる可能性はないのだろうか?」難治性心室細動に対するDSEDやVCは、こうした疑問に関わる除細動戦略です。2022年のDOSE VF試験では、従来の除細動を続けた群と比べ、生存退院割合の改善が示されました。[1]
ただし、研究で良い結果が得られたことと、すべての救急現場で標準処置として実施すべきことは同じではありません。その後の解析や追加研究も含め、現在の評価を整理します。
先に押さえたい結論
DSEDとVCは、有望な研究結果を持つ一方、適切な対象や実施条件の検証が続いている戦略です。
ILCORは条件を満たす成人での検討を弱い推奨として示しています。一方、AHA 2025は両者の有用性が確立していないとし、ERC 2025はVCを検討する立場を取りながら、DSEDを研究環境外では用いないよう示しています。[5–8]
日本の救急現場では、質の高い心肺蘇生と適切な標準除細動を土台に、地域の活動基準、医師の指示体制、機器の使用条件、教育・事後検証まで含めて考える必要があります。[7,8,12,13]
「難治性VF」には異なる状態が含まれる
心室細動(ventricular fibrillation:VF)は、心室の電気的活動が乱れ、有効な血液の拍出が失われる致死性不整脈です。無脈性心室頻拍(pulseless ventricular tachycardia:pVT)も、心停止時の電気ショックの対象です。[7]
難治性VFには、研究を通じて完全に統一された定義があるわけではありません。DOSE VF試験では、初期波形がVFまたはpVTで、約2分間の心肺蘇生を挟んだ標準除細動を3回行っても、リズム確認でVFまたはpVTが認められる状態を対象としました。[1,2]
「3回」とは、通常の蘇生サイクルの中で行う3回の除細動です。胸骨圧迫を再開せずに、3回続けてショックを行う意味ではありません。
さらに、次の2つは区別する必要があります。
| 状態 | 起きていること |
|---|---|
| 真にショック抵抗性のVF | ショックによってVFが停止せず、持続している |
| 再発性VF | ショックでVFはいったん停止するが、その後に再発する |
心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)中は胸骨圧迫による波形の乱れが加わります。そのため、次のリズム確認でVFが見られただけでは、前のショックがVFを停止できなかったのか、停止後に再発したのかは分かりません。AHA 2025も、この違いを重視しています。[7]
この区別は、通電方法の変更を考えるうえで重要です。VFを止める効果と、停止後の再発を抑える課題を、一つにまとめて評価することはできません。
標準除細動・VC・DSEDは何が違うのか
VCは、パッドの配置を変え、心臓を通る電流の方向を変更する方法です。DSEDは、2台の除細動器から短い間隔で順次ショックを行います。文献ではDSEDをDSDと略記する場合もあります。[2,7,8]
| 戦略 | 除細動器・パッド | DOSE VF試験での配置・考え方 |
|---|---|---|
| 標準除細動 | 1台・1組 | 右前胸部と左側胸部の前側方配置を継続する |
| VC:ベクトル変更除細動 | 1台・1組で通電 | 前側方配置から、胸部と背部の前後方配置に変更する |
| DSED:二重連続体外式除細動 | 2台・2組 | 前側方配置と前後方配置を用い、短い間隔で順次ショックを行う |
DSEDは、2台を同時に放電する方法ではありません。試験では1人の実施者が2台を順番に作動させました。また、単純に設定エネルギーを足し算して「2倍の強さ」と理解する方法でもありません。通電方向、時間差、機器の特性が関わります。[2,5,7]
DOSE VF試験で比較されたのは、標準除細動、VC、DSEDという3つの戦略です。VC群にDSEDを追加した試験と捉えると、結果を読み違えます。なお、この比較は研究の概念説明であり、一般市民がAED2台で試すための手順ではありません。
DOSE VF試験で分かったこと
救急隊の組織ごとに戦略を切り替えた試験
試験はカナダ・オンタリオ州の6つの救急サービスで実施されました。対象は、心臓が原因と推定される院外心停止の18歳以上で、前述の条件を満たした患者です。外傷性心停止などは対象外でした。[1,2]
研究方法は「クラスター無作為化クロスオーバー試験」です。救急サービスという組織を単位に戦略を割り付け、原則6か月ごとに切り替えました。同じ患者に3種類の処置を順番に試したわけではありません。[2]
割り付けは標準群136人、VC群144人、DSED群125人の計405人でした。主要解析は、実際に受けた処置ではなく、最初に割り付けられた群で比較するITT解析です。[1]
生存退院と各評価項目
主要評価項目は生存退院、副次評価項目はVF停止、自己心拍再開、退院時の良好な神経学的転帰でした。
| 評価項目 | 標準除細動群 | VC群 | DSED群 |
|---|---|---|---|
| 割り付け人数 | 136人 | 144人 | 125人 |
| 生存退院 | 18/135人(13.3%) | 31/143人(21.7%) | 38/125人(30.4%) |
| VF停止 | 92/136人(67.6%) | 115/144人(79.9%) | 105/125人(84.0%) |
| 自己心拍再開 | 36/136人(26.5%) | 51/144人(35.4%) | 58/125人(46.4%) |
| 良好な神経学的転帰 | 15/134人(11.2%) | 23/142人(16.2%) | 34/124人(27.4%) |
※原著Table 3に基づく割り付け群別の結果です。欠測のため、項目によって分母が異なります。[1]
この試験の「VF停止」は、ショック後に約2分間CPRを行い、次の解析でVFが認められないことです。自己心拍再開(ROSC)は、組織化された波形に加えて脈拍や血圧が確認されることを指します。良好な神経学的転帰は、退院時の修正Rankin尺度(mRS)2以下、すなわち無症状から軽度障害までと定義されました。[1]
VFが停止したこと、自己心拍が再開したこと、生存して退院したことは、それぞれ別の到達点です。
相対リスクと絶対差を分けて読む
生存退院について、標準群と比較した調整済み相対リスクは、DSEDが2.21(95%信頼区間1.33~3.67)、VCが1.71(1.01~2.88)でした。年齢、性別、市民によるCPRなどを考慮した推定値です。[1]
公表割合から求めた未調整の絶対差は、DSEDが17.1%ポイント、VCが8.4%ポイントです。この差と、調整済み相対リスクは異なる指標です。また、DSED群の割合がVC群より高くても、それだけで両者の優劣が証明されたとはいえません。ILCORも、どちらが優れているかを結論づける根拠は不足するとしています。[5,6]
試験だけでは断定できないこと
予定症例数に達する前に終了した
予定は930人でしたが、COVID-19に伴う運用上の問題で405人の段階で終了しました。救急職員の不足による応答時間の延長などが、割り付けられた戦略の適時実施に影響する懸念がありました。原著も、転帰の件数が少なく、効果を過大評価した可能性を挙げています。[1,2]
解析方法と評価項目によって結果の確かさが異なる
AHA 2025は、ITT解析では生存退院の改善が示された一方、実際に受けた戦略での解析では有意差が確認されなかった点を指摘しています。ただし、処置を受けられた患者だけを比べる解析には患者背景の偏りも入り得るため、ITT解析を無効にする結果とは扱えません。[7]
また、原著の副次評価項目の信頼区間は、多重比較に対する調整が行われていません。良好な神経学的転帰ではDSEDに改善を示す結果がありましたが、VCの改善は明確ではありません。主要評価項目と同じ確かさで、すべての転帰が改善すると断定しないことが大切です。[1,6]
救急体制や入院後治療の影響が残る
対象の多くは都市部で、医師による監督や隊員へのフィードバックが充実した環境でした。2台目の確保が難しい地域や、異なる人員配置で同じ結果が得られるかは、別に検討する必要があります。入院後の治療情報も十分には得られておらず、生存退院の違いを病院前の処置だけで説明できるとは限りません。[1]
2024~2026年の追加研究をどう読むか
DOSE VF試験の二次解析
2024年の解析では、詳細に評価できた345人のうち、真にショック抵抗性のVFが60人(17%)、再発性VFが285人(83%)でした。これは当該解析対象の内訳であり、すべての心停止患者に当てはまる割合ではありません。[3]
2025年には、同じDOSE VF試験の心電図記録を用い、VFの持続時間などを調べた解析も公表されています。これらは機序や対象を考える手掛かりになりますが、新たな患者集団で結果を再現した独立した試験ではありません。[4]
2026年:早期DSEDの無作為化パイロット試験
スウェーデンのdouble-Dパイロット試験は40人を、早期DSED群29人、標準群11人に割り付けました。少なくとも1回の標準除細動後から早期導入を目指す設計で、3回後の変更を検討したDOSE VF試験とは介入時点が異なります。[9]
主目的は実施可能性と安全性の確認で、機器の不具合や有害事象は観察されませんでした。ただし、少数例で認めなかったことは、あらゆる機器・条件での安全性の保証ではありません。生存率の優越性を確定する本試験とも区別して読む必要があります。[9]
2026年:ニュージーランドの全国導入後の観察研究
ニュージーランドの研究は、導入前663人、導入後738人、計1,401人を評価しました。対象は病院前に3回を超える除細動を受けた院外心停止です。30日生存は導入前13.4%、導入後15.5%で、有意な改善は認められませんでした。[10]
DSEDを受けた群の転帰が低い関連もありましたが、重症で予後が厳しい患者ほど選ばれた可能性があります。こうした「適応による交絡」がある観察研究から、DSED自体が生存率を下げたとは判断できません。[10]
ここから読み取れるのは、研究での有望な効果が、通常の救急体制へ導入すれば同じ大きさで現れるとは限らない、ということです。実施時期、対象選択、訓練、資機材の確保を含めた検証が続いています。
現在のガイドラインはどう評価しているか
各団体の立場は、次のようになります。
| 団体・資料 | VCの位置づけ | DSEDの位置づけ | 推奨・根拠の表現 |
|---|---|---|---|
| ILCOR:2023 CoSTR、2025総括 | 3回以上のショック後もVF/pVTの成人で検討してもよい | 同じ条件で検討してもよい | VC:弱い推奨・確実性は非常に低い。DSED:弱い推奨・確実性は低い。2025総括でも両戦略の検討に言及[5,6] |
| AHA:2025成人ALS | 有用性は確立していない | 有用性は確立していない | 両者ともClass 2b、エビデンスレベルB-R[7] |
| ERC:2025成人ALS | 正しい前側方配置を確認したうえで、3回後も続くVFでは前後方配置などへの変更を検討 | 研究環境外では使用しない。ルーチン使用を推奨しない | VCとDSEDで異なる実務上の勧告。ILCORの評価区分と単純に同一視しない[8] |
| JRC:蘇生ガイドライン2025〈2026年刊〉 | 正式版の推奨本文は本稿では未確認 | 同左 | 発刊情報を確認。推奨の強さ・内容の記載は保留[11] |
「検討してもよい」は、一定の条件下で選択肢になり得るという意味です。「有用性は確立していない」は、有効性を十分に確定できていないという評価であり、無効や有害が証明されたという意味ではありません。
また、ERCの「研究環境外では使用しない」という勧告を、単に「まだ一般的ではない」と弱めて伝えることも適切ではありません。推奨の対象、条件、強さを保って読む必要があります。[5,7,8]
AHAのClass 2bと、ILCORの「弱い推奨」は、採用する評価体系が異なります。AHAのB-Rは無作為化研究に基づくエビデンスの区分であり、それだけで有用性が確立したことを意味しません。[7]
JRC 2025は2026年7月に書籍版が発刊されています。ただし、公開サイトの発刊情報だけでは、この処置の正式な推奨文を確認できません。海外の内容をそのまま「日本の推奨」に読み替えないことが必要です。[11]
日本の救急隊員・学生が理解しておくこと
標準的な蘇生の質を支える
新しい戦略を知ることと並行して、まず確認したいのは、速やかな除細動、質の高い胸骨圧迫、適切な換気、ショック前後の中断時間、パッドの位置と密着です。標準的な除細動の条件が整っているかを確かめることが、代替戦略を論じる土台になります。[7,8]
例えば左側のパッドが適切な側胸部に位置しているか、皮膚との接触に問題がないかは、機器の設定とは別に確認する事項です。パッド追加や体位の調整に時間がかかれば、CPRの中断につながり得ます。準備動作も含め、蘇生全体の質として評価する視点が必要です。[8]
地域の運用と機器の条件を確認する
日本のメディカルコントロール(MC)は、地域に応じたプロトコル、医師の指示・助言、医学的な事後検証、再教育によって救急活動の質を支える仕組みです。[12,13]
VCやDSEDの運用を考える場合も、所属の活動基準、必要な医師の指示・助言、使用機器の添付文書・取扱説明書、メーカーの情報を照合し、実施体制を検討することになります。機器が2台そろうだけで、研究と同じ条件が整うわけではありません。
特にDSEDでは、役割分担、安全確認、時間管理、記録方法まで含めた訓練が課題になります。全国の救急隊で一律に実施可能、あるいは一律に禁止と、本稿の研究情報だけから結論づけることはできません。
新しい知識を、活動の振り返りにつなげる
学生や隊員がこのテーマから学べるのは、処置名だけではありません。「その研究は誰を対象にしたのか」「改善したのはVF停止か、生存退院か」「推奨はどの団体の、どの条件のものか」を考えることです。
現場の振り返りでも、単にショックの回数を数えるだけでなく、リズムの推移、胸骨圧迫の中断、パッド位置、指示・処置・搬送の時系列を確認すると、検討すべき点が具体的になります。こうした事後検証を教育や活動基準の改善へつなげることが、MC体制の役割です。[12,13]
まとめ
DOSE VF試験は、難治性VFに対するDSEDとVCの可能性を示した重要な研究です。一方、早期終了や解析上の不確実性があり、その後の二次解析、小規模試験、通常診療での観察研究も、研究の性質を分けて評価する必要があります。
現在は「新しい除細動戦略の可能性を知り、その適応と条件を検証していく段階」と捉えるのが適切です。質の高い標準的な蘇生を確実に行い、研究結果とガイドライン、さらに日本の運用条件を結びつけて考えることが、救急隊員と救急救命士教育に求められます。
参考文献
[1]Cheskes S, Verbeek PR, Drennan IR, et al. Defibrillation Strategies for Refractory Ventricular Fibrillation. N Engl J Med. 2022;387:1947–1956. doi:10.1056/NEJMoa2207304
[2]Drennan IR, Dorian P, McLeod S, et al. DOuble SEquential External Defibrillation for Refractory Ventricular Fibrillation (DOSE VF): study protocol for a randomized controlled trial. Trials. 2020;21:977. doi:10.1186/s13063-020-04904-z
[3]Cheskes S, Drennan IR, Turner L, Pandit SV, Dorian P. The impact of alternate defibrillation strategies on shock-refractory and recurrent ventricular fibrillation: A secondary analysis of the DOSE VF cluster randomized controlled trial. Resuscitation. 2024;198:110186. doi:10.1016/j.resuscitation.2024.110186
[4]Cheskes S, et al. The impact of alternate defibrillation strategies on time in ventricular fibrillation. Resuscitation. 2025;209:110549. doi:10.1016/j.resuscitation.2025.110549(公表抄録を確認)
[5]Berg KM, et al. 2023 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations. Circulation. 2023. Double Sequential Defibrillationの項。doi:10.1161/CIR.0000000000001179
[6]Berg KM, Bray JE, Djarv T, et al. Executive Summary: 2025 International Liaison Committee on Resuscitation Consensus on Science With Treatment Recommendations. Circulation. 2025;152(suppl 1)–S22. doi:10.1161/CIR.0000000000001361
[7]Wigginton JG, Agarwal S, Bartos JA, et al. Part 9: Advanced Life Support: 2025 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation. 2025;152(suppl 2)–S577. doi:10.1161/CIR.0000000000001376/AHA公式本文
[8]Soar J, Böttiger BW, Carli P, et al. European Resuscitation Council Guidelines 2025 Adult Advanced Life Support. Resuscitation. 2025;215:110769. doi:10.1016/j.resuscitation.2025.110769/ERC公式PDF
[9]Riva G, Blick Nordkvist E, Magnusson C, et al. Feasibility of early double sequential defibrillation in out-of-hospital cardiac arrest: the double-D randomised pilot trial. Heart. 2026 Jun 30. Online ahead of print. doi:10.1136/heartjnl-2026-327905(公表抄録を確認)
[10]Dicker B, Callejas P, Hutchinson H, et al. Implementation of double sequential defibrillation (DSD): an Aotearoa New Zealand observational study. Resuscitation. 2026;226:111138. doi:10.1016/j.resuscitation.2026.111138(書誌情報・公表抄録と著者公開の校正前本文を確認)
[11]日本蘇生協議会.JRC蘇生ガイドライン2025:書籍版の発刊情報.書籍版は2026年7月13日刊。VC・DSEDに関する正式版の推奨本文は未確認。
[12]総務省消防庁.令和7年版消防白書.第2章第5節「4.救急業務高度化の推進」.メディカルコントロール体制の充実。
[13]総務省消防庁救急企画室長.救急業務におけるメディカルコントロール体制の更なる充実強化について(通知).令和3年3月26日、消防救第97号。



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