【難治性心室細動】に対する新しい戦術

小ネタ
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救急現場で心室細動を伴う心肺停止に遭遇した場合には良質な胸骨圧迫を絶え間なく行いながら高度な気道確保、薬剤投与、3回程度の電気ショックを実施してから搬出となるパターンが多いと思います。

救急隊としては重要な要素との狭間で電気ショックの間に薬剤投与という選択肢ぐらいしか抗う手段はなくなり、心肺蘇生を継続しながら早期に医療機関に搬送のフェーズに移行します。

今回ご紹介するのはそんなケースでも除細動成功率あがりまっせ~っという報告のご紹介!

原文はThe NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEの難治性心室細動に対する除細動戦術VOL. 387 NO.21NOV 24.2022に掲載されています。

結論

難治性心室細動に対し2台の除細動器を使用(DSED:Double sequential external defibrillation )して、急速かつ連続的な電気ショック(rapid sequential shocks from two defibrillators)と前胸部と背部にもパッドを貼り違う方向からの電気ショック(VC:vector-change)を加えることで除細動の成功率が向上し生存退院率も高くなった。

試験方法

院外心停止中の難治性心室細動の成人患者を対象にカナダでの6つの救急隊を対象に無作為化クラスタークロスオーバー試験

まず、すべての患者は標準プロトコルに従って3 回電気ショックを実施

3回連続ショック後も心室細動が継続する対象者に対して、DSEDおよびVC除細動を標準的除細動と比較するためにいずれかの方法で電気ショックを行った

無作為化クラスタークロスオーバー試験 (Cluster Randomized Crossover Trial) は、疫学研究や臨床試験などで使用される試験の1つです。

無作為化クラスタークロスオーバー試験では、ランダムに割り付けられたグループを介入群と対照群に分けます。

一定期間後、介入群と対照群を交換し、再び同様の期間に介入を行います。

つまり、各グループは介入群と対照群の両方に参加します。

この試験により、介入効果をより正確に評価することができます。

対象

院外心停止の18歳以上の患者において、CPR2分毎の標準的な除細動を3回施行後もリズム解析で心室細動か脈無し心室頻拍が確認されている症例

比較

①パッドを右前胸部と左側胸部(心尖部付近)に装着する「標準除細動群」

②左側胸部と左背側に装着する「VC(vector-change:ベクトル変更)除細動群」

③標準装着とVC装着を合わせて計2セットのパッドを装着し、1回あたりの除細動タイミングにつき連続で2回の除細動を行う「DSED群」

①標準除細動群
②ベクトル変更除細動群
③DSED群

一次転帰は退院までの生存とし、二次転帰には除細動成功、自発循環の回復および退院時の修正ランキンスケールスコアが 2 以下。

結果

①「標準除細動群」136人②「VC(vector-change:ベクトル変更)除細動群」144人③「DSED群」125人 合計405人に実施 (患者の平均年齢:64歳、女性の割合:15.6%)

一次転帰(退院まで生存)

①「標準除細動群」⇒13.3%

②「VC(vector-change:ベクトル変更)除細動群」⇒21.7%

③「DSED群」⇒30.4%

二次転帰

除細動成功

①「標準除細動群」⇒67.6%

②「VC(vector-change:ベクトル変更)除細動群」⇒79.9%

③「DSED群」⇒84%

自発循環の回復

①「標準除細動群」⇒26.5%

②「VC(vector-change:ベクトル変更)除細動群」⇒35.4%

③「DSED群」⇒46.4%

退院時の修正ランキンスケールスコアが 2 以下

①「標準除細動群」⇒11.2%

②「VC(vector-change:ベクトル変更)除細動群」⇒16.2%

③「DSED群」⇒27.4%



ということで、結果は標準的な除細動群よりもVC除細動群またはDSED群の方が難治性心室細動に対する生存退院が高いことを示しています。

問題点

また本研究には引用元のNew England Journal of Medicineの社説(November 24, 2022
N Engl J Med 2022; 387:1995-1996DOI: 10.1056/NEJMe2213562)で目標温度管理や経皮的冠動脈インターベンションの実施などの蘇生後のケアに関する情報を提供していない、COVID-19の影響で試験は早期に終了してしまい、アプリオリ検出力分析では必要サンプルサイズが930人と推定されましたが、実際には405人のサンプルであるなどの問題点も指摘されています。

アプリオリ検出力分析は、統計的検出力の特定のレベルを達成するために研究に必要なサンプル サイズを決定するために使用される統計ツールで必要以上のデータを収集することなく、研究が対象の効果を検出するのに十分な検出力を備えていることを確認することで時間とリソースを節約できるだけでなく、有意義な結果が得られる可能性が高まります。

まとめ

  • DSEDおよびVC除細動はこの試験を見る限り難治性心室細動に対する新たな戦術として適している
  • 実際の運用までには更なる試験や議論が必要

日本での運用はまだまだ先になりそうですが、運用開始になった場合には2台の除細動器または4つのパッドが接続でき連続して電気ショックができる除細動器が救急隊に用意できるまでは、VC除細動だけ先行して実施となるかもしれませんね。

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