消防士の主な目標は人命を救い、彼らの財産を保護することですが同時に自分自身の安全も優先する必要があります。
そんな消防士にとってセルフレスキュー(自己救助)は、現場活動中に危険な状況や環境から自ら脱出する能力を指し消防士の必須スキルです。
セルフレスキューに陥らないために
まずはセルフレスキューが必要な状態にならないことが第一ですので、日頃から次のポイントをしっかり押さえながら活動しましょう。
- 個人用保護具 (PPE): 防火服、ヘルメット、手袋、安全靴、呼吸器などの特殊なPPEで環境から身を守る
- コミュニケーション:単独行動は取らず常にチームで活動することや、無線で同僚や指揮者との継続的なコミュニケーションを維持し現在の位置を明確にする
- 緊急脱出口: 複雑な構造物や危険な環境において、進入時や転進時に複数の避難経路と出口ポイントを特定できるように状況認識を実施する
- 複数救助隊同時投入: 危機的な状況の消防士救助のために即時複数救助隊を投入する。この場合指揮者は他の活動よりも優先して実施する
- 体力訓練: 消防士は職務上、強さ・持久力・敏捷性が必要であるが、セルフレスキューのためにも高強度の継続的なトレーニングが必要
そして、最も大事なことは、これらのポイントは安全を確保するための 1 つの要素にすぎず、適切な活動方針、状況評価、チームワーク、基本的な活動の遵守がセルフレスキューの必要性を最小限に抑え、現場活動中の消防士の安全を確保します。
かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ【消防魂】
とはいえ、いくら気をつけても災害現場では何が起こるかわかりませんし、「かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ消防魂」っていう場合もあります。そこで、今回はセルフレスキューテクニックを2つご紹介します。
カップリングが消防士を救う
位置を見失えばホースに沿って脱出するということは、よく知られています。これは自身が放水中のホースなら簡単にできます。
では、放水活動をしていない状況で他の隊員とはぐれ手元にホースがなく、付近は猛煙と熱気に包まれ呼吸器の空気残量も少なくなってきた状況をイメージして下さい。
とりあえず壁づたいに出口を探そうと姿勢を低くして手で探りながら移動しているとホースに触れました。
ホースのどちらに進むか?
どうやら右手にオス、左手にメスだと触ってわかりました。さて、あなたはどっちに向かいますか?
結論は右手のオス側のホースをたどっていけば、そのホースの先端はメスなのでポンプ車の吐水口はオスなので、そこまでたどり着けます。この時ホース延長が下手な隊のホースだとグチャグチャで出口までかなり時間がかかるので、ちょっとムカつくことでしょう。
ぶ厚いケプラー手袋をしていてもカップリングに触れさえすれば形状やゴムカバーの有無でオスかメスかわかります。この呼び方は今の時代的になんか言われそうなんで、プラグ側・ソケット側なんかに変わるかも。。。
覚え方
オス・メスがわかっても緊急時にどっち側やったっけ?となる可能性もあるので、適当な語呂合わせや連想で覚えておくのがいい方法です。
アメリカではカップングの形状から【Smooth, Bump Bump, To The Pump】と覚えるそうです。
ノッペラ(smooth)とボコボコ(bump)のメス、ボコボコ(bump)だけがオスでスムーズバンプバンプツーザポンプと韻を踏んで覚えやすいみたいです。
ホースが交差して不安になっても、カップリングを通過する度にメスからオスに向かっていることを確認できれば方向は合っています。
実際の訓練映像はこちら
ホースが消防士を救う
次は火災現場で活動中に床が抜けて消防士が転落した状況で、応援を待つ余裕がないケースです。
意識あり、負傷なしのケース
転落した消防士(以下A消防士)が自力で安全な場所に避難できない場合は、A消防士を引っ張り上げるための十分な余裕がある通水しているホースをU字状にして転落した開口部にせっせっと降ろす。
これくらいホースが降下すればOKです。
A消防士はホースに乗り、両腕でホースを抱える様にし両腕を交差させてお互い反対の腕をがっちり掴む。
準備ができればホースの両サイドに各2名の消防士を配置し、A消防士がバランスを崩さないようにリーダーが声を掛けて両サイドでタイミングを合わせて必死のパッチでA消防士を引き上げる。
A消防士は両足をしっかり突っ張って両腕をしっかり互いに掴んでいるので、開口部に近づくとホースが左右に広がる限界がくるので、ある程度A消防士の頭が開口部に近づくと、上にいる消防士がA消防士の呼吸器のストラップを掴み、A消防士を安全な場所まで引っ張りす
意識のある/負傷した消防士
転落したA消防士は動けるけど、負傷や他の要因で上記の方法が出来ない場合は以下の方法を試します。
A消防士が立ち上がることが出来なければ、床面まで下したホースの上に覆いかぶさり両脇の下辺りにホースがくるようにして相撲で脇を固める様に両肘で挟み固定する。
立ち上がる事が可能であれば立ち上がってから高さを調整してもらい胸の高さにきたホースを同様に両脇に抱えこんで脇を閉める
ホースを両サイドから引き上げるのは同じですが、より慎重に引き上げA消防士が滑り落ちない様にするために、リーダーはホースから離れ上から監視して声掛けを行いA消防士が上がってきたら呼吸器のストラップを掴み迅速に引っ張こむ
意識不明/無力な消防士
A消防士が意識を失ったり、ホースラインに身を固定することができないほど無力になった場合は、他の消防士(以下B消防士)を降下させます。
筒先部分を下の床まで降ろし、そのホースづたいにB消防士を降下させた後に上に残っている消防士がホースを上記の方法と同様に左右に展開して待機。
B消防士は、消防士をホース上に乗せるまで、自身とA消防士を保護するための筒先を備えておきます。
B消防士は救助用のホースをひねりX字を作り、その中にA消防士を通し消防士の脇の下を通す。
B消防士はホースが交差している部分をできるだけA消防士のヘルメットと空気呼吸器の間に近づけができない様にしてからスリングロープや小綱、カラビナ等でホースをしっかりと固定する。
引き上げ準備が完了すれば、上で待機中の消防士がA消防士を引き上げB消防士が下からサポートする。
A消防士救出完了後、ホースを再度降ろしB消防士を【意識あり、負傷なしのケース】の要領で引き上げる。
以上となります。
一般住宅などで床の構造を考慮せず嘴平伊之助みたいに突撃しないことが最重要です。
この様な救助方法は、セルフレスキューのために必要なスキルではありますが使わないことが一番望ましいです。
定期的に復習しないと忘れてしまうし、隊の連携が図れないので訓練種目に困ったらカップリング判断訓練と併せて実施しましょう。
youtubeで”through-the-floor rescue using a hoseline”と検索すればいろんな他の方法も観れます。各本部でいろんなバージョンが有って面白いですよ。
*本記事はhttps://www.fireengineering.com/に記載している記事をわかりやすく解説したものです。日本とアメリカでは方法が違う場合がありますが、ゴールは同じなので読めば思考の幅が広がりますのでお勧めします。
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