以前の記事【次世代自動車へのアクセス】では主に次世代自動車への救助方法を説明しましたが、今回は電気自動車の火災時の消火方法をご紹介します。
【電気自動車火災】発生率について
まず予備知識として電気自動車の火災発生率です。
全車両中の件数になると、まだあまり普及していないので必然的に少なくなるので分母を揃えて比較してみました。
アメリカの自動車保険比較サイトAuto Insurance EZ(オートインシュアランスEZ)による2022年6月の発表では販売台数10万台に対する火災件数としてこんな数字が出ています。
- ハイブリッド車約3500台
- 内燃機関車約1500台
- 電気自動車約25台
また電気自動車の火災事故の発生頻度は、同一走行距離でみるとガソリン・ディーゼル車の約1/10という報告もあります。
【電気自動車火災】の原因
Auto Insurance EZの2020年のリコール調査の結果で電気自動車やハイブリッド車の火災の多くは、バッテリーに関連していると指摘されています。
【電気自動車火災】の消火方法
電気自動車火災のターゲットは主にバッテリーとなります。
バッテリーが十分冷却できていないと、再燃焼する可能性が高いので総務省消防庁の「次世代自動車事故等における消防機関の活動要領」でも35ページに「バッテリーを冷却するために大量の水で消火を行う」とあります。
唯一確実な消火方法
丸ごと水槽に沈める!
これが唯一確実な方法です。(上はアメリカでの消火)
日本では、吸水式土のうで周りを囲み簡易水槽のようにして実施できなくもないですが、時間と手間がかかるので最終手段的な方法です。
実施可能な消火方法
ステップ1
純粋な電気自動車かハイブリッド車かの識別
純粋な電気自動車なのか内燃機関も搭載しているハイブリッド自動車なのかの識別は重要です。
理由
ハイブリッド自動車では燃料に応じた消火方法も考慮する必要があります。
識別方法については「次世代自動車へのアクセス」参照。
特にガソリンタンクとリチウムイオンバッテリーを搭載するプラグインハイブリッド車では、さまざまな消火方法が必要となります。
ほとんどの場合は車両の種類を簡単に特定できまるので、この非常に重要な最初のステップを忘れずに実行してください。
ステップ 2
電気自動車のバッテリーの位置確認
理由
電気自動車ではバッテリーが主な火元になるため、バッテリーの正確な位置を特定し、効果的に冷却するためにバッテリーに直接水をかけることが重要。
車の底部に放水が必要な場合は、車の片側を浮かした状態で安定化すれば容易に放水できます。
ステップ 3
救助活動用の熱画像カメラを使用して、バッテリーパックのさまざまな領域の温度を検査する
理由
最も高温の場所を見つけ、それらのすべての場所に直接放水し冷却することが重要です。
バッテリーから熱や炎が広がっていく方法は、バッテリーパックの構造や配置、使用年数、発火の原因などによりさまざまです。
状況により500 リットルから 30,000 リットルの水が必要になる場合があります。
継続した大量放水はバッテリー内の温度を下げ、熱暴走を制限する最も効果的な方法となります。
ステップ4
バッテリーの温度と煙を45分間継続監視します。
理由
最終的な安全確認となり、他の機関への引継ぎや移動が可能になります。
炎や煙が目視で確認でできない状態になれば、再び熱画像カメラを使用して火が消えたことを完全に確認するため45分間継続的に監視します。
温度上昇があれば再度放水し、45分間完全に熱反応がなくなるまで繰り返します。
バッテリーの温度が外気温まで下がれば当該車両は他の場所に移動可能です。
注意
バッテリーは事故から数日または数時間後に再点火する可能性が常にあります。
車両は保管場所に関係なく、他の物から 約15m離れた場所に保管する必要があります。
なかなか言葉ではイメージし難いところもありますよね。
これらのステップは次のYouTubeのhttps://www.youtube.com/user/brockarcherから抜粋していますので、一度ご覧ください。
バッテリー消火システム
Battery Extinguishing System Technology略してBESTという器具もあります。
これはバッテリー消火に特化した器具で以下の様な概要です。
操作が簡単
簡単な操作で取付2分
先端のノズルは8ミリ秒(0.01秒)で展開し内部に侵入してバッテリー全体を効果的に冷却
効率的
EVメーカーの推奨は8000ガロンの水での消火だが、これなら100PSI(PSIとはポンド・スクエア・インチで1平方インチあたりに何ポンドの圧力がかかるかを表わすもので100PSI≒700Kpa、7kgf/㎠)の圧力がかかった8ガロン(アメリカの規格では1ガロン≒3.8リットルなので約30L)の水で10分あればバッテリー火災を鎮圧できる
安全
BESTの操作員は約8m離れて先端から8m離れているのでリチウムイオンバッテリー火災に付随して生じる熱や有毒ガスの影響が少ない
Rosenbauer(ローゼンバウアー)っていうアメリカの特注消防装置および設備のメーカーで販売しています。
さすがに専用消火器具だけあって映像でその簡単な操作方法が確認できます。
今後電気自動車がもっと普及すれば、このような器具も日本の企業からも販売してほしいですね。
まとめ
- 電気自動車の火災は件数も割合も少ない
- バッテリーの場所を徹底的に大量放水で冷却
- 再燃する可能性を考慮して保管場所確保
基本的な車両救出のイロハは下記をご参考!
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