消防は、テロ攻撃に対応しその被害を軽減する上では重要な役割を果たしており、テロ対応部隊に不可欠な組織の一つです。
しかし人命救助を最優先する消防は、テロ攻撃に対しての対策は十分とはいえません。
総務省より「消防機関における NBC 等大規模テロ災害時における対応能力の高度化に関する検討会報告書」(以下:検討会報告書)が公開されています。
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/assets/290322_houdou_1.pdf
内容は形式的、戦術的な記載なため戦略的な思考の不足は否めず、結果的に活動能力を損なう可能性のある脆弱性があります。
各本部で、これに基づいてそれぞれの消防力に応じて独自の計画されていますが同じような内容です。
そんなわけで今回は、消防組織の対テロ対策の脆弱性についてです。
テロ攻撃に対する課題
対テロ訓練のクオリティ欠如
消防士は緊急事態に対応するいろいろな訓練を受けており、もちろんテロ対応も含まれています。
それは一般的に前述の「検討会報告書」をベースにCBRN災害のシナリオでの訓練です。
CBRN:化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)
細かな動きが決められていないブラインド方式の訓練であっても、戦術変更レベルの各局面での判断力は求めらず、戦術(約束事)をこなすことに重点が置かれており戦略から見直しが必要な想定は私が知る限りではありません。
これでは実際の現場で想定外の攻撃を受けた場合に正常性バイアスが働き、戦略変更が必要な場合でも一旦退避等の判断ができない可能性があります。
例えば一般的なCBRN訓練ではゾーニングから救助や除染、トリアージなどを経て搬送に至ります。これは基本的な約束事であるこの道線を各ユニットが守ることで機能しています。
では、テロ組織が二の矢でこの道線を破壊する活動を実施した場合についてどうするか?は考慮されていません。
いろんな状況が考えられるのですべての実訓練を実施するのは事実上不可能ですが、机上でのDIG訓練は可能です。これにより持ち合わせる消防力から戦術変更や戦略変更などのラインが理解できます。
訓練内容のブラッシュアップ
国際的なテロ組織は日本の防災組織よりある意味スマートな組織です。そして、効率化に特化した攻撃を常としており常にブラッシュアップを繰り返し、その手段は日々進化しています。
それに対応するためには消防士も最新の脅威に対応する準備ができる様に、継続的かつ最新のトレーニングが不可欠となります。
ここで言う最新とは世界のどこかで起こったテロ攻撃を再現した訓練を実施することが理想です。そして、より大事なことは訓練結果を検証しどんどん改訂していく必要があり、前述の「検討会報告書」は毎年更新されるべきです。
また、爆弾テロに関しては「関係機関と連携を密にし、情報共有、活動の調整等を行った上で、爆発による火災の消火、迅速な要救助者の救出、爆傷傷病者への応急処置等を行う」と報告書にはありますが、戦術でも戦略でもない書き方であまりにも漠然としている気がします。
例えば、IED(Improvised Explosive Device):即製爆発装置に対して消防士は知識は皆無であり、活動中に発見しても、IEDには「これは爆弾です」とは書いていませんし、現場付近にスマートフォンがあってもそれが起爆シグナルを送る装置かもしれないとも想像できません。
予算・資器材の不足
適切な予算と資器材は、消防隊が効果的なテロ対策を実行するために必要な技術および人員を確保するために重要です。
総務省消防庁より消防組織法第50条(国有財産等の無償使用)に基づいて、全国の主要な消防本部に配備されている資器材や化学剤遠隔検知装置は配備されています。
しかし、国際的なテロ組織の大規模な攻撃に対しては明らかに不十分です。かといって総務省の予算も限らています。
国民の生命や財産を守るという大原則に基づき、費用の捻出手段としてなら各省庁全体で対応するべき課題なので防衛費の一部も充てるか、警察や自衛隊などと資器材の共有化して効率的な資器材運用をする水平思考で対応する必要もありだと思います。
情報不足
大規模災害であっても自然災害などであれば情報は他の機関とも共有され、その後の活動に生かすことが可能です。
しかし、テロ攻撃の情報に関しては消防機関は法執行機関等と同じレベルの情報にアクセスできない場合があります。
これにより、テロリストの脅威を予測して対応する能力が制限される可能性があります。
ターゲットとしての消防
消防署やその他の消防施設は出入りにあまり制限がないため、テロリストによってソフト ターゲットと見なされる場合があります。
一般的に通信指令室でさえも攻撃に対して策は講じておらず脆弱で、破壊されると大部隊の運用など対応することが不可能になります。
米国の対策
米国では以下のような対策があるようです。(※ネット検索)
予防措置
国土安全保障省は、他の連邦および州の機関と共に、潜在的な脅威を監視および追跡し、疑わしい活動を調査することにより、テロの防止に取り組んでいる。
緊急対応
テロ攻撃が発生した場合、消防士、警察官、緊急医療担当者などのファーストレスポンダーは、被害を最小限に抑えて命を救うために迅速かつ効率的に対応できるように訓練されている。
建築基準
米国国立標準技術研究所 (NIST) は、耐火材料、スプリンクラー システム、非常用照明など、テロ攻撃に対する建物の回復力を強化するための建物の建設と設計に関するガイドラインと基準を策定している。
消防士の訓練
消防士は、テロ攻撃を含むさまざまな緊急事態に対応できるように訓練されており、危険物や大量破壊兵器、およびその他の潜在的なテロリストの脅威の取り扱いに関する専門的な訓練を受けている。
公教育
政府はまた、潜在的なテロリストの脅威についての意識を高め、個人が疑わしい活動を報告するよう奨励するための公教育キャンペーンを実施。
アメリカ同時多発テロ事件(September 11 attacks)では消防士343人、警察官71人が活動中に職に殉じたことは皆さんもよくご存じかと思います。
当時、誰も飛行機でのWTCビルへ突入するテロ攻撃は予想しておらず、また衝撃では崩壊しなかったWTCビルが、その後の火災が原因で崩壊したということも判明し、多方面からテロ攻撃による被害を防止および軽減することを目的としてこれらが策定されたようです。
まとめ
- 消防はテロ攻撃に対する脆弱性に積極的に対処し、テロ対策における役割を効果的に実行できるようにする必要がある
- そのため継続的なトレーニングと教育、十分な資金と資器材、情報共有の強化、他の機関や組織との協力の強化が不可欠
- テロ攻撃に対しては即応部隊として出場し、盲目的に計画に基づく活動を実施することだけにとらわれず一旦退却して戦略変更することで結果的に多くの国民や消防士の命を守れる場合もある
- 大規模爆弾テロ攻撃や特殊なテロ攻撃の場合には、自衛隊・警察・消防の連合指揮体制やチーム編成が効果的
世界的な情勢の変化から、日本にもミサイル攻撃などの可能性があることを考えればそれにも対応できる体制を含めて考えていく時期です。
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