第3章:救急の判断を支える考え方「PEMEC」とは何か
― 迷わず行動するための“判断の地図” ―
第1章では119番通報での緊急度判定を、第2章では救急現場での緊急度判定を見てきました。
電話での判断、現場での判断。これらは別々に行われているように見えますが、実は同じ方向を向いた一連の判断です。
その判断の流れを、一つの考え方として整理したものがPEMEC(Prehospital Emergency Medical Evaluation and Care)です。
PEMECは「技術」ではなく「考え方」
PEMECという言葉を聞くと、専門的な医療技術や手順を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかしPEMECは、何か特別な処置を指す言葉ではありません。
PEMECは、「何を優先して考え、どう判断するか」を整理した考え方の枠組みです。救急の現場では、限られた時間と情報の中で、次々に判断を迫られます。
そのときに、「何から考えるべきか」「どこを見落としてはいけないか」を示してくれるのがPEMECです。
PEMECが必要とされる理由
救急の現場は、常に整った環境とは限りません。
- 情報が少ない
- 状況が刻々と変わる
- 正解が一つとは限らない
そんな中で、判断が人によって大きくぶれてしまうと、対応の質に差が出てしまいます。PEMECは、判断の軸を共通化するための考え方です。
第1章で見た119番通報時の緊急度判定、第2章で見た救急現場での緊急度判定。これらが全国で大きくずれないのは、背景に同じ考え方があるからです。
PEMECは「判断をつなぐ」
PEMECの役割は、判断を“新しく作る”ことではありません。すでに行われている判断を、一本の線としてつなぐことです。
- 119番通報での判断
- 救急現場での判断
- 病院につなぐための判断
これらを別々に考えるのではなく、同じ方向に向かう判断として整理する。PEMECは、そのための「地図」のような存在です。
経験を積んだ救急隊員は、自然とPEMECに近い判断をしている
PEMECは、ある日突然生まれた新しい方法論ではありません。実際には、長く現場を経験してきた救急隊員の多くが、PEMECという言葉を知らなくても、結果としてPEMECに近い判断を行ってきました。たとえば、
- 病名にとらわれず、まず「今の状態」を見る
- 「今すぐ命に関わるかどうか」を最優先で考える
- 119番通報で得られた情報を、現場での判断につなげる
こうした考え方は、経験を積んだ救急隊員であれば、自然と身についていくものです。
実際、筆者が現職で救急活動に携わっていた当時は、PEMECという言葉はまだ広く使われていませんでした。それでも、現場で行っていた判断や行動を振り返ると、その多くは現在のPEMECの考え方と大きくは変わりません。
PEMECは、現場で積み重ねられてきた判断や経験を、後から言葉として整理し、共有できる形にしたものだと考えることができます。
つまりPEMECは、「新しいことを覚えるための枠組み」ではなく、これまで現場で行われてきた判断を、初学者にも分かる形で示した「共通言語」なのです。
「診断」ではなく「判断」を支える
これまでの章で繰り返し触れてきたように、救急の現場で行われているのは診断ではなく判断(臨床推論)です。
PEMECもまた、病名を当てるための考え方ではありません。PEMECが支えているのは、
- 今すぐ対応が必要か
- 搬送を急ぐべきか
- どこにつなぐべきか
といった、行動に直結する判断です。
そのためPEMECは、現場で迷わないために存在しています。
一般の人にとってのPEMEC
PEMECは救急隊員のための考え方ですが、一般の人にとっても無関係ではありません。119番で聞かれる質問、救急隊が現場で確認していること。それらはすべて、「今すぐ命に関わるかどうか」を見逃さないための判断です。
PEMECを知っていると、救急のやりとりが「ただの質問」や「時間稼ぎ」ではないことが分かります。
このシリーズのまとめ
このシリーズでは、
- 第1章:119番通報での緊急度判定
- 第2章:救急現場での緊急度判定
- 第3章:それらを支える考え方「PEMEC」
を見てきました。
救急は、救急車が来た瞬間に始まるものではありません。119番に電話をかけた瞬間から、
判断は始まり、現場を経て、病院へとつながっていきます。
その一連の判断を、迷わず、ぶれずに行うための考え方がPEMECです。
おわりに
「救急車を呼ぶほどではないかもしれない」
「こんなことで119番していいのだろうか」
そう迷う気持ちこそが、救急の入口に立っている証拠です。救急は、誰かが勝手に決めて動いているものではありません。
あなたの通報から始まる判断が、現場の判断につながり、命を守る行動へと続いていきます。




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