タイ王国編
基礎知識
- 面積 51万4,000平方キロメートル(日本の約1.4倍)
- 人口 6,609万人(2022年)(タイ内務省)
- 首都 バンコク
- 民族 大多数がタイ族。その他 華人、マレー族等
- 言語 タイ語
- 宗教 仏教94%、イスラム教5%
- 略史 タイ王国の基礎は13世紀のスコータイ王朝より築かれ、その後アユタヤ王朝(14~18世 紀)、トンブリー王朝(1767~1782)を経て、現在のチャックリー王朝(1782~)1932年立憲革命。1942年1月25日にタイも英米に宣戦布告を行ったことで事実上枢軸国となりましたが、連合国軍機によりバンコクが空襲を受けることはあったものの、結果的にタイ国内で大規模戦闘となることはなく、終戦を迎えました。タイ王国では終戦直前に親英米派「自由タイ」に政権が移譲されて戦勝国となる
救急医療サービスの現状
タイにおける救急医療サービス(EMS)は、1930年代より始められた慈善団体による感染症(主にコ
レラ)による死者の搬送に始まる長い歴史を有しており、これら慈善団体が交通事故等による傷病者
の救助・搬送を担うようになった
関連する資機材や救命用資機材、病院の救急部門の整備等も併せて行われてきた
災害医療及びEMSに関する政策や法制度は多種多様で、さまざまに解釈されることもあり、研修や現
場での実践もこの影響を受けて統一されていない
災害時においては、感染症法(1982 年)、疾病管理法(2007 年)、疾病予防法(2007年)、精神保健法(2008年)など、保健セクターにおける関連法規に準じて対応や管理が実施される
救急医療法(2008年)によって、EMSに係る調整全般を担当する国家救急医療機関(NIEM)が設立
された
タイのESMはフランスの Service d’Aide Médicale Urgente (SAMU)をモデルに構築されており、救急隊員の教育はオーストラリアの教育システムを参考にし、医療施設の分類は米国外科学会のモデルに準じるというエエとこどりである
救急指令センター
NIEM(国家救急医療機関)は、13保健区と77県及びバンコク都に設置された合計94カ所の救急指令センターを支援している
県レベルの救急指令センターの大半は県立病院内にあり、これらのセンターは災害時には24時間対応可能な緊急指令センター或いはEOC:dispatch center communicationとなることも可能である
標準的な設備は、電話通信システム、無線ネットワーク、テレビ番組及び SNS の監視及びインターネット地図情報と車両搭載位置情報システム(GPS)を用いた救急車両追跡システムである
NIEM はヘリコプター使用に関し、空軍、陸軍、警察、天然資源・環境省及びKan航空との間に覚書
を締結しており、必要に応じて機材及び飛行サービスの提供を受ける
沿岸部が多いタイ南部では、海軍が大規模な海上での緊急事案に対応する。また、民間のスピードボートを利用した搬送サービスも活用され、NIEM は1,100 隻以上の民間船舶と覚書を締結している
救急搬送の要請
タイの救急搬送の要請は、NIEMが管轄する1669 システム(図)の利用を国家レベルで推進しており、その利用は日本と同様に年々増加している。
指令センターは、以下の 5 つの機能を有している。
1)電話や無線を通じた通報の覚知
2)トリアージ・プロトコルに基づく、派遣 EMS チームのレベルの決定
3)搬送手段の調整
4)医学的見地からの派遣承認と必要に応じた助言
5)全派遣及び派遣チームの行為に対する権限及び医学的見地からの監督
救急搬送サービスに係る情報は、NIEMが管理するEMS情報システム(ITEMS)に記録され、この記
録に基づいて派遣された EMSチームや病院に対して費用支弁を行っている。
ITEMS は、年間統計やEMS の現状評価にも利用されている。
救急隊
救急隊は、現場から病院到着まで傷病者に医療サービスを提供するための対応能力に応じて4段階に区分されている
- EMT-I:救急標準課程修了者レベル
- EMT-B:救急 I 課程修了者レベル
- FR:消防職員の初期教育レベル
EMTのレベル分けは、教育時間に応じて提供できる処置内容が異なる
指令センターは傷病者の状態に合わせて、派遣するチームのレベルを決定する。
派遣医療チーム
タイでは、緊急医療対応チーム(MERT)、災害緊急医療対応チーム(DMERT)、小規模 MERT
(Mini-MERT)、災害時派遣医療チーム(DMAT)、及びタイ赤十字救護班等、様々な医療対応チー
ムが設立されている
MERT は保健省が主体となって各県病院に 1 チームずつ配備され、DMAT はタイ南部を中心として、公立・私立病院及び大学に配備されている
タイのDMAT
DMAT は、2004年のスマトラ沖地震・津波の経験から、公立病院、私立病院、大学医学部、及び軍関
係者等の関与を得て、2008 年に設立
チーム編成は、医師を含む 17 名が標準(平均 12 名から18 名)であるが、医師を含まないチームも存在している
DMAT の大部分はタイ南部に配備されており、洪水対応を主目的としている。しかしながら、正式な要請経路は整備されておらず、保健省が状況に応じて要請をしているのが現状である
まとめ
タイがこれまで整備してきた、災害医療に係るガイドラインや DMAT設立及び育成の経験は、災害医
療体制の整備を進めている周辺国においても有効に活用されるものも多いと思料される
ラオス、カンボジア、ミャンマーなどは、自国におけるEMS体制整備のため、研修などを通じ
てタイからの技術支援を得ており、特に人材開発においてさらなる協力関係を強化することが期待さ
れる
*本記事は「ASEAN 災害医療・救急医療にかかる情報収集・確認調査ファイナルレポート」を参考に作成しています
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