救急隊員の方なら多くの方がアルアルやと思いますが、まずはザクっと数字から見ていきましょう。
現状
- アメリカ
毎年1名以上の緊急医療サービスの専門家が暴力で殺害され、2,000名が負傷 - オーストラリア
年間約10名の救急隊員が暴行を受け重傷を負っている - イギリス
ロンドンの救急隊員が1年間で600回暴行を受けている - 13 か国のEMS担当者を対象とした調査では、回答者の65%が勤務中に物理的な攻撃を受けた
以上、JEMSより
- オーストラリア連邦
87.5%の救急救命士がこれまでの経験のなかで患者や家族,または同僚や上司などから救急の現場で暴力を受けたと報告
言語的暴力が 82%,脅迫55%,身体的暴力38%,セクシャルハラスメント17%,性的暴力4% - カナダ
75%の救急救命士が暴力を受けたと報告
言語的暴力67%,脅迫41%,身体的暴力26% - 日本
救急隊員の 34%が身体的暴力を,62%が言語的暴力、6%が性的暴力を経験
以上 救急隊員が傷病者およびその家族等の関係者より受ける暴力の実態に関する研究より
オーストラリア連邦の「同僚や上司などから救急の現場で暴力を受けた」って救急隊の?いやさすがにそれはあれへんやろ~、と思うので患者の同僚や上司ってことやと思います。
やっぱり結構皆さんやられてますね。私も身体的暴力は何度か経験はあります。
しかし、言葉の暴力は、緊急の場合はどうしてもアドレナリン出まくってる状態の人が多いのである程度許容していたのであんまりピンときません。
また勤務していた地域の特性もあるし、特に飲酒関係の救急要請では本人や関係者の言葉の許容範囲を広くとって観察しないとピットフォールにズッポリ落ちることがあるので行動を伴わない言語的暴力はスルーしていました。
では、今回参考にした救急隊員が傷病者およびその家族等の関係者より受ける暴力の実態に関する研究をもう少し掘っていきますね。
経験年数や階級別などによる差
性別
- 女性 3.1%(令和3年消防吏員全体に占める女性割合の約3.2%)
- 男性 96.9%
平均年齢
36.3 歳
- 29 歳まで29.8%
- 30 〜 39 歳37.3%
- 40 〜 49 歳23.0%
- 50 歳以上9.9%
隊での役割
- 救急隊員46.3%
- 救急副隊長26.1%
- 救急隊長17.7%
- 救急係長以上9.9%
結語要約
参考にした救急隊員が傷病者およびその家族等の関係者より受ける暴力の実態に関する研究の結語要約は以下の通りです。
- 暴力を経験しやすい背景には現場における酩酊状態,その他疾患の影響などにより混乱した現場のなかで不可避的に暴力を受けている
- 救急隊専任で救急救命士の資格を有し職位が高いと暴力を経験しやすい
- 本調査の質問項目には暴力を受けた具体的な場面に関する項目は含まれていないためどのような場面で暴力を受けているのか明らかにできない
救急隊が暴力を回避する方法
上記の研究では数字的な現状分析はできていますが、ではどうすれば防げるかという一番知りたい部分に関する調査である具体的な暴力を受けた時の状況はできていません。
そこで、3万件ほど救急現場に出ている経験からちょっと考えていきます。
暴力が発生する場面
上記の研究の結語でも書かれてますが、私の経験からもやはり飲酒がらみや過度の緊張からくる混乱が引き起こす場合が多くあり、また精神的な疾患から攻撃性が顕著になっている場合もありました。
次に、研究では「救急隊専任で救急救命士の資格を有し職位が高いと暴力を経験しやすい」とありますが、これに関してはあまり相関関係は無いと思います。
それよりも経験値が重要な要素です。
平均年齢では36.3歳、全体の70%近くが39歳までに暴力を経験している比率が多い結果となっています。
これは基本的に通常はファーストコンタクトは隊長が取ります。
その時のコミュニケーションの取り方で結果が全く違うものになりますが、この30歳代半ばから40歳前の隊長っていうのがみんな結構イケイケで自信満々な時期であることが要因の一つかもです。
救急隊員としてある程度現場経験もして知識もあるし、現場のパターンもよく把握していて隊長としても慣れてきてちょっとイキっている頃です。
関西では、調子に乗っている行為を「イキる」と言います。
そこからさらに経験を積み、状況評価を適切に行うことが出来るようになるので50歳以上には暴力経験が少ない結果となっていると思います。
私の実経験も同様で隊長になった30代半ばの頃は「押さば押せ!引かば押せ!」みたいな感じでしたが、多くの経験をただの統計上の数ではなく知識を有効に活用するために経験と交ぜわせて知恵に変換していき突発的な事案以外は言語的暴力を含めてほぼ無くなりました。
状況評価は教科書や講習会では知識は学べますが知恵まで昇華できれないので現場でしっかり学んでください。
それが、自身や隊員の安全の確保に大いに役立ちます。
暴力回避方法
- 状況評価は教科書や講習会では知識は学べるが、知恵まで昇華できれないので現場でしっかり学び、自身や隊員の安全の確保につなげる
- 車内収容後は隊長が救急車後部で傷病者やその関係者とコミュニケーションを取るようにすることで、暴力回避と隊員のOn the Jobにもなる
- 通報時に興奮状態や飲酒であることが判明している場合はより慎重な言動で対応し、室内侵入時は外に少なくとも1名は残して指示があるまで侵入はさせない
現状ではこんな感じでしょうか?
全国規模でアンケートを実施して身体的暴力に至るまでのパターンを抽出しレッドラインを定め、それを超えれば躊躇なく警察官の臨場や患者観察を一次中断し避難するなど一定の暴力回避のプロトコールがあれば全国の救急隊だけでなく本部も役立ちそうですね。(領空侵犯にはスクランブルみたいなイメージ)
個人の判断ではなく暴力回避プロトコールに従い活動停止したとなれば後で訴訟になってもロジカルな説明ができます。
世界的も同様の研究の必要性は求められています、
まとめ
- 言葉遣いや態度、いわゆる接遇はいかなる場合も重要!
- 危険を察知したら逃げる!
- 状況判断は現場で学べ!
- 救急隊員を守る公的プロトコールが必要!
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