泥棒が逃走中に屋根から転落とか、取り調べ中に持病が悪化(のフリ)とか、興奮状態から過呼吸とかで、警察署や現行犯逮捕で現場からの要請があり手錠を掛けられた被疑者を救急搬送することはちょこちょこあります。
こんな場合のアプローチは警察官と連携しながら、いつも以上に救急隊全員の安全確保も必要ですが、同様にいつもの通りの適切な観察と処置も実施しなければいけません。
手錠をしたままの搬送
状態によっては先に観察や処置をしてから、搬送という方法もありますがそれは今回パスしての内容です。
安全確保を最優先に考えると、この様に後ろ手で手錠をしたままストレチャーに乗ってもらえば簡単ですが、両上肢が隠れているので肝心な血圧測定や血中酸素飽和度の測定などの観察が困難になります。
この写真のおっちゃんの顔を見てもわかるように、この体勢は結構その傷病者にとっても苦痛です。
なんとか観察できて、例えば低血糖でブドウ糖投与が必要と判断しても上肢がこの状態では静脈路確保を不慣れな下肢の静脈がターゲットとなります。
災害現場でのパーシャルアクセスではそれしかできない状況ですが、ちょっとした工夫で通常の流れに近づける方がスムーズな活動が可能になります。
以下はその2つの例です。
手錠を2つ使う方法
複数の警察官がいれば、その数だけ手錠が使える状況なので2つの手錠を使用した方法をご紹介します。
一方の上肢とストレッチャー本体のメインフレームを手錠で警察官に繋いでもらいます。
ここでのポイントはメインフレーム側の手錠の位置です。
下の拡大図を見てください。サイドレール(柵)基部とメインフレームの部品(白○)の間に手錠をかけることで可動範囲(赤⇔)が制限されます。
警察官にも説明して意思の疎通を図り協力して実施します。
元記事はアメリカなのでストレッチャーは日本仕様とは違うかもしれません。そんな場合はマジ止血にはあまり役に立ちませんが、いろんなシチュエーションでスリングがわりに使える三角巾でサイドレールに固定する方法などで対応して下さい。
そしてもう一方の上肢は、このように頭の上でメインフレームに手錠で繋いでもらいます。
こちらもやはり可動域は制限したいので、スペースを何かで狭めた位置に手錠を繋ぎます。写真ではサブストレッチャーのキール部分とベルトで作った障害物の間に繋いでいます。
そして、忘れてならないのが体幹部もしっかりベルトで運動制限をすることです。転落防止の意味というより、この様なケースでは不意に逃走を図ったり暴力を振るうことがあります。
この状態になれば、血圧測定などの観察や静脈路確保などの処置が可能になり、後ろ手に手錠を掛けられた状態に比べ傷病者にとってもかなり快適な姿勢での搬送となります。
傷病者のベルトを利用する方法
次に手錠が1つしか使えない場合の対応です。
これは傷病者がズボンベルトをしていることが前提となります。
まずは、起き上がってこれない様に体幹部をストレッチャーベルトで運動制限をかけます。そして、警察官に手錠のチェーン部分を傷病者のベルトの下を通して両上肢に手錠を掛けてもらいます。
両手は身体の前にはありますが、主導権は傷病者にはなく救急隊のコントロール下に置くことができます。
どちらの方法で搬送するにしても、挙動が怪しくなればすぐに対応できるように警察官の同乗は必須です。
まとめ
手錠を後ろ手にしたままの搬送に比べ、上記の二つの方法は以下のメリットがあります。
- 負担を軽減し手錠による手首の損傷のリスクを軽減する
- 観察や処置も実施しやすくなり、傷病者の症状改善や悪化防止に有効
- 救急隊の安全も担保されやすい
注意するべきポイントは嘔吐など、速やかに体位変換が必要な場合もあるため、あらかじめその様な場合の対応を同乗警察官も含めて役割を決めておく必要はあります。
できれば、あらかじめ所轄警察の救命講習などの機会を利用して広報をしておくことで、お互いの理解が深まると思います。
また、もちろんですが病院に搬送連絡の際に傷病者が手錠を掛けられていることやその理由などの状況について正確に伝えることが重要です。
夜間時間帯になればアルバイトの医師や看護師が多く、ややこしい傷病者はその背景で断れますのでサポート体制完備はキチっと伝えましょう。
病院搬送後も警察官と連携して、傷病者が必要な医療処置がスムーズに受けられるように病院スタッフに協力することで、その後の受け入れも良くなります。(と思いたい)
※本記事はFire Engineering EMS Transport for a Patient Who Is in Custody を元に作成しています。
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