【火災防御戦術】

消防

火災防御の戦略は日本全国どこも同じで延焼阻止を目的とします。この抽象的な目的を具体化したものが火災防御戦術となりますが、地域特性や各消防本部の総合的なパフォーマンス力によっていろいろ違いがあります。

他の都市の火災防御戦術についてはよくわかりませんが、今回は私が所属していた本部の火災防御戦術についてのお話です。また当然最先着隊は救助活動も必要で、消火活動についてはその活動要領もいろいろありますが今回は火災防御活動の骨幹のみを取り上げます。

odanより引用

火災防御戦術の三本柱

まず前提として、私が所属していた消防本部は日本有数の大都市で特徴として密集市街地が市内全域に分散しており、容易に火災被害が拡大するような街並みです。また、救急車も通行することが困難な狭い道路も数多くあります。そのためかなり以前からそんな街並みに対応できるST車と呼ばれる小型タンク車(救急車より小回り可能)が配置されており、現在ではポンプ車は全てがST車に置きかえられています。

そして、消防団は存在せず本部の消防隊のみの活動となり、それらの全車両に車載されたモニターで出場隊の動向が把握可能で、他の隊がどのあたりを走行しているか、どこの消火栓にどこの隊が部署したかも確認できます。

その様な前提から以下が基本的な火災防御戦術の三本柱となっています。

  • 先着ST車を直近部署させ即時消火
  • 原則として事前命令で定められた方面を防御する包囲態勢
  • 消防部隊を効率的に運用するための相掛り
https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000060146.htmlより引用

出場体制

火災防御戦術を構成するために必要な通常火災の出場表です。必要に応じて特命隊として救助隊や救急隊が付加される場合もあります。

隊名指揮隊救助隊消火隊救急隊梯子隊支援隊
第1出場127(指揮班1)11 
第2出場  5(指揮班1)  1
第3出場  8   
第4出場  8   

ST車を直近部署させ即時消火

最先着するST車が火点直近に部署し、まずは800Lのタンク水で消火を始めます。現場到着から放水開始まで早ければ30秒ほどです。

これにより通常の火災で最も大事な即時消火が可能になり、早い段階で勝負をつけれます。イメージとしては火災がレベルアップする前の雑魚キャラのうちに叩きのめすって感じです。

しかし、火災の状況によっては即時消火をあきらめて延焼阻止にシフトする判断も必要です。判断基準はまず800Lを使い切るせいぜい2分間の放水時間と火災の状況の天秤になりますが、そこにその日の隊員の練度を重ねて小隊長判断となります。

延焼阻止となると800Lでは無理なので、第2着の消火隊はそれを補完するために最先着ST車直近の消火栓に部署し、放水中の最先着したST車に中継送水を実施します。第2着の消火隊は中継完了後最先着したST車の吐水口よりホース延長をして相掛りで消火活動を開始します。(分岐菅からの相掛り放水の場合もあり)

また、この中継送水が間に合わない場合は最先着ST車から第2着消火隊までホースを逆延長するか、それも間に合わない場合は消火栓にホースを直結して補水を行います。

当初からモニター画面や無線で第2着隊以降の到着が遅延すると予想できれば初めから消火栓部署をする場合もあります。

文字で書くと簡単ですが、実際はこの間に延焼状況や増強部隊の要請、要救助者などの初期情報を本部に無線連絡しなあかんので小隊長さんは頭も身体もフル稼働の時間帯です。

最先着隊と第2着隊のイメージ図

事前命令で定められた方面を防御する包囲態勢

最先着ST車と第2着の消火隊は上記の通りそれぞれの隊の判断で部署するので、包囲体制を仕上げるためには以降の消火隊は配置方面を到着予想順位、災害点の位置関係などから東西南北のいずれかの方面に指令時に事前命令(指令書に反映)され部署する消火栓も指定されます。

第1出場では消火隊は7隊です。1隊は指揮班として指揮補助にあたり、2隊は最先着隊と第2着隊なので延焼危険大の方面での活動となり残りの4隊で東西南北を囲み包囲体制を確立します。この4隊は指定された消火栓部署し消火活動を行います。

第1出場包囲体制のイメージ図

火災の拡大により第2出場になると更に消火隊が5隊が出場しますが、1隊は背面指揮にあたり残りの4隊は第1出場で東西南北に部署している消火隊に相掛りを行うため消火栓部署はしません。

この時点で5つの消火栓で15口の放水となります。

第2出場隊までは災害現場に近い隊から編成されますが、第3出場以降の隊は市内で他にも火災が発生した場合を考慮した編成(近い順ではない)となり、それぞれに同じく4隊が方面部署が指定され水利部署して放水し4隊が相掛りで活動します。

第2出場包囲体制と相掛り放水イメージ

消防部隊を効率的に運用するための相掛り

効率的な相掛りの例として以下があります。

  • 放水開始時間の短縮
  • 長距離ホース延長による隊員の疲労度の減少
  • 早期包囲体制の確立
  • 機関員が視認できる範囲での活動となるので急に放水停止が必要になった時でも瞬時に対応できる
  • 少ない消火栓で多口放水が可能

*相掛りを3線3口放水にするか2線3口(分岐菅使用)にするかは現場の判断ですが、基本的には停水によるノズル圧力の変動が少ない3線3口放水が優先となります。

相掛りのメリットを最大限に引き出すためには、相掛り隊と被相掛り隊との連携は必須となります。そのため、お互いの小隊長は相掛り体形や筒先部署位置、筒先把持隊員などを走行中もしくは現場到着後すみやかに決定する必要があります。

odanより引用

まとめ

以前は消火栓部署しない相掛り放水は、他人のふんどしで相撲を取るような感じで否定的に見られる時代もありました。

時代は流れ、効率よく延焼阻止という目的を達成するためにこの戦術が生まれました。

最短時間で放水開始でき、高齢者が多くなってきている消防隊員にも負担が少なく、多口放水で包囲殲滅できるうえに危害防止もしやすいといいことばかりのようですが、決められた約束事を守る規律が求められるため全隊員が戦術を理解しておく必要があります。

また、災害現場では予想外の出来事が起こることは常なので小隊長以上の階級にあるものは規律が乱れた時にどのように修正していくかも問われます。

現在はこの様な戦術ですが、今後はドローンでの俯瞰撮影や各個人にGPSトラッカー(ラグビー選手の背中についてる四角いやつ)を装着させて動向の把握をすることで、さらに具体的な戦術に変わっていくかもしれませんね。

各消防本部でもそれぞれ独自の火災防御戦術があると思いますが、もしよければコメントにて教えてください。

odanより引用

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