救急隊として活動していると、現場到着時に客観的に死亡状態と判断できる事案を多く経験します。私も退職まで概算で2000件以上は遭遇しています。
今回は死亡状態と判断し、不搬送となった場合の家族へのアプローチ方法について自身の経験を踏まえてお伝えします。
コミュニケーションスキル
結論はコミュニケーションスキルが重要となります。
今は色々なプロトコールが各MCでありますが、それらと同様に死亡状態で不搬送になる場合にも標準的なプロトコールの様なアプローチ方法があってもいいぐらいだと思います。普段の活動でも必要ですが、搬送されることなく死亡状態と判断された対象者の家族らには特に労りのあるコミュニケーションスキルが必要です。
理由としては年々救急救命士の受験年齢は若くなってきています。データーは調べていませんので推察になりますが以前は小隊長クラス、その次は副隊長ときて今では数年経験した隊員が救急救命士になります。
そして昇任すると小隊長代理の肩書が付き、たまに隊長もしなければいけません。それまでによい隊長や先輩の下で経験を積んでいればよいですが、残念ながらそうではない場合もあります。
死亡状態と判断するためには体幹部の離断や全身腐敗以外に6つの項目がありますが、そのたったの6つの項目でさえ色々理由をつけて数項目省略する小隊長も実際にはまだ存在しています。
よくある例として、事件性があるため現場保存を優先したという話を聞きますがそれは誤った活動です。まずはしっかり観察を実施するのが救急隊に求められます。
それが、結果として現場に臨場した警察官から生命兆候がありで再要請される事案が数年に一度発生している事実があります。
ちょっと話が脱線しましたが、そんな隊で貴重な時期を過ごすと今回のテーマである死亡状態での不搬送になる際の家族へのアプローチも全く気づかいの欠けたものになります。
救急隊員は搬送対象者だけではなく、その家族らにも状況が許す限りインフォームドコンセントをとることを求められるのと同様に、死亡状態で不搬送となった場合にでもしっかりとコミュニケーションをとりましょう。
おおよそ家族からの質問は同じですので、ある程度の計画をあらかじめ隊内プロトコールで決めておけば、少しでも不安や恐怖しかない家族に寄り添うことが可能になります。
よくあるケースですが、発見や通報が遅れたことを家族や関係者は自分たちのせいにする時もありますが、その場合も時間的な要因でないのであればしっかり否定してあげてください。
繰り返しますが、家族たちは不安や恐怖でいっぱいで動揺しています。
質問事項によどみなく答え、具体的な観察項目とその結果を伝えた後も決して事務的に今後の流れについて説明することなく、資器材を収容する時間を利用してお別れの時間と場所を提供してあげてください。
質問や観察結果を伝える際には、理由を先に伝えてから答えや結果を伝える方がしっかり聞いてもらえることが多いです。これは通常の説明方法とは反対ですが先に結論を伝えると動揺してしまうケースがあります。
愛する人を失ったことを告げた救急隊の言葉と思いやりは、良くも悪くも残された家族らの心に残ります。
普段の活動でも同じですが、コミュニケーションスキルは言葉だけでなく態度や立ち振る舞いも含まれます。いわゆる非言語コミュニケーションってやつです。
非言語コミュニケーションと言えばメラビアンの法則が有名ですね。
感情や態度について矛盾したメッセージが発せられたときの人の受けとめ方について、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすかというと、話の内容などの言語情報が7%、口調や話の早さなどの聴覚情報が38%、見た目などの視覚情報が55%の割合であった。この割合から「7-38-55のルール」とも言われる。「言語情報=Verbal」「聴覚情報=Vocal」「視覚情報=Visual」の頭文字を取って「3Vの法則」ともいわれている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%93%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
細かい割合はともかく表情や態度が重要なことはご理解いただけると思います。すこし意識するだけでも伝わり方が違ってきます。
おまけ
ついで&尺稼ぎのためのおまけです。
体幹部の離断や全身腐敗以外で傷病者が明らかに死亡している場合の一般的な死亡状態の判断基準として
- 意識レベル300
- 呼吸全く感じない
- 総頚動脈で脈拍触知不能
- 瞳孔散大で対抗反応が全くない
- 体温が感じられず冷感がある
- 死後硬直又は死斑が認められる
以上の6項目すべてが該当する場合とあります。
ちゃんと診てますか?
もちろん「もしもし、わかりますか?」から始めろとは言いませんが、最初に診て聴いて感じて触れて死亡状態であろうと判断すれば、間違いのないように証拠を集めることで自身の隊を守ることにもなります。
搬送拒否などの不搬送でも同じことで、ちょっと話して数分で判断することなく不搬送にするならば、それなりの物理的な確証を数点持つことが、今の救急隊には求められます。
聴診器を使い30秒ぐらいはしっかり聴診し、モニター心電図を記録して印刷する。この2点をすることで具体的な証拠となり、確認作業をしっかりすることで家族らに説明する際にも受け入れてもらいやすくなります。
伏臥位で顔面も床の方を向いているだけで、瞳孔の観察できないという隊員もいましたがそれは嘘で診れます。
ゆっくり仰向けにして観察後にまた元の位置に戻せば現場保全的にも問題ありません。たまに顔面が扁平して瞼が明けづらいこともありますが、これも開眼する隊員とライトを当てる隊員に役割分担すれば可能です。
そして、各項目チェックは2人以上ですることをお忘れなく。
よくある判断まちがいで再通報で病院搬送した事案はこれさえしっかりしていれば確実に100%防げています。
時間的要因で硬直が解けたりや瞳孔の白濁、外部環境などでの体温維持など6項目揃わない場合も、もちろんあります。ここでの観察目的を抽象化すると生命兆候が存在しないことの確認ですので、室内温度測定やエアコンの稼働状況など状況に応じて具体的な方法を追加ですることも必要かもしれません。
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