マレーシア編
基礎知識
- 面積約33万平方キロメートル(日本の約0.9倍)
- 人口約3,350万人(2023年マレーシア統計局)
- 宗教イスラム教64%、仏教19%、キリスト教9%、ヒンドゥー教6%、その他2%
- 1957年マラヤ連邦独立~1963年 マレーシア成立(シンガポール、英領北ボルネオ(サバ)及びサラワクとマラヤ連邦が統合)~1965年 シンガポールが分離し独立
救急医療サービスの現状
1990年代以前より、救急部門を設置している病院がいくつかあったものの、医師はおらず入院待ちの
患者の待機場所を提供しているだけの状態であった。
1993年に、クアラルンプール病院において本格的な救急医療外傷治療サービスを開始し、その後トリアージも導入されマレーシア外傷治療(MTLS)コースや二次救命処置(ALS)コースなどの研修が開始された。
1998年には救命救急に係る卒後教育課程が開講され、救急医は専門医として認知されるようなる。
救急搬送サービスは、2004年のスマトラ沖地震・津波後にパイロット事業が開始され、国家モデルとして導入された。
また、災害管理は救命救急士(EMT)の重要な職務として認知されている。
80%以上の医療サービスは公的機関が提供しており救急医療サービスは米国、英国及びオーストラリアをモデルに発展してきた。
救急隊員の教育システムは英国を参考に整備され、公立病院の救急外傷部門は救急医療・外傷治療政策で提示されたガイドラインによって運営されている。
その公立病院は114あり、専門性と外来患者の応需能力によって4つに分類される。
- クラス4病院⇒高度な専門性を備えた最上位の医療機関であり、1 日最低 300 人の外来診療
- クラス3病院⇒1日最低200人の外来診療
- クラス2病院⇒1日最低 150 人の外来診療
- クラス1病院⇒最下位レベル
規模及び機能によって救急部門における専門医の対応状況も以下の様に定められている。
- 国立病院・州病院⇒救急部門にいずれかの専門医が常駐
- 大規模専門病院⇒24時間対応可能、専門医は常駐か呼び出しかは問わない
- 小規模専門病院・非専門病院⇒救急医を責任者とし最低 3 名の救急医がいること
上記の救急部門(救急室)は 132 カ所の公立病院にある。救急外来受診の最低診療料金は診療毎に1 MYR:約31円(自国民)で、これ以外の費用は原則として必要ない。
2012年は750万人が救急部門を受診し傷病程度の内訳は
- 赤トリアージ(第1優先順位)3%
- 黄色トリアージ(第2及び3優先順位)20%
- 緑トリアージ(第4及び5優先順位)77%
救急部門の基本的な薬品と装備品の基準はEMTSP(救急医療・外傷治療政策)によって定義されている。
救急臨床ケアに必要な内容は、トリアージ、救急治療、緊急蘇生治療、経過観察、One-stop crises centre services(女性や子供の暴力や虐待の被害者に対して、医療及び保健福祉的な必要手続きが1カ所で行えるよう配慮されたシステムで、救急部門の中に個室があり、安全面やプライバシーの面でも配慮がなされ、行政的な保護手続きが完了するまでの一時的な避難場所としても機能する)、軽症対応及び外傷経過観察である。
救急指令センター
救急医療コーディネーションサービスが、緊急通報への対応と救急車の派遣を行っている。
派遣の種類には一次出動、二次出動、施設間移送、多数傷病者事故及び災害管理、並びに大規模集会等への備えがある。
救急医療コーディネーションセンターは国内21カ所に設置され、基本的には1つの州に1つのセンターがあり、州や地方病院に併設されている。
都市部の一部の州には2カ所以上のセンターがあり(クアラルンプール連邦行政区2カ所、セランゴール州5カ所設置等)、交通量の多い場所や工業地帯といったEMSの必要性が高い地域に配置されている。
緊急通報
マレーシアの緊急電話番号は2007年から運用されていたが、初期は警察、消防救助、救急医療システムは別々の番号を用いていた。2012年に999番に統一された。
まず初めに日本のNTT様なテレコムマレーシアが運営する全国3カ所のコールセンターで緊急通報を受け、国家警察、消防救助、救急医療システム、市民防衛隊及び海上部門に振り分けている。
多数傷病者事故に関する通報を得た場合には、同じ内容を他の関係機関も同時に傍受でき情報共有がなされる。
救急医療コーディネーションサービスでは、救急重症度判断プロトコル(ESI)を参考にして開発したプロトコルに従って、救急車を派遣する。
医療対応チーム
一般的に、救急搬送は アシスタントメディカルオフィサー1名とファーストレスポンダーとしての訓練を受けている運転手1名で運用される。
困難で前例のない救急事案では、オンラインによる医学的助言や必要に応じて救急医療コーディネーションサービスからの派遣要請や、多数傷病者発生事案では必要に応じて救急医の現場派遣も可能である。
大部分の患者は自己の移動手段で救急部門を受診する。しかし、病院前救護を患者が必要とする場合
には、公立病院は救急医療コーディネーションサービスにより救急搬送システムを提供している。
施設間移送も救急医療コーディネーションサービスが標準プロトコルやガイドラインを元に個別の調整をする。
保健省は国内の主要な救急搬送サービスの提供者であるが、赤新月社、セントジョンズアンビュランス24、市民防衛隊等の機関も救急搬送サービスを行っている。
現時点では、私設や他の救急搬送サービスに対する特別な規則や法律はなく、救急車の所有者の実情は把握できていない。
人材
マレーシアでは、米国や英国と同じ意味での救急隊員は存在せず、アシスタントメディカルオフィサーが救急医療システムにおける応需、救急車搭乗、救急部門での医師への支援、及び診療所での救急手当などを担当している。
アシスタントメディカルオフィサーの認証は 3 年間のコースの修了と 6 カ月の医療施設での実務訓練の後に行われ、現状では看護師がアシスタントメディカルオフィサーになることが多い。
マレーシア国民大学では、アシスタントメディカルオフィサーに対する 4 年間の学位コースを提供
し、能力向上を図っている。
2週間の電話対応訓練とそれに続く 6 カ月間の実務経験を積んだ アシスタントメディカルオフィサー は、保健省によってエマージェンシーメディカルオフィサーとして認証される資格がある。認証は毎年の試験による更新が必要である。
マレーシアで医業に携わる医療従事者は全てマレーシア医学会の規則を遵守する。
継続教育
現場においては、以下に関する研修コースが病院等、全国の関連機関で適宜開催されている。
一次救命処置・二次救命処置・集団災害管理・患者トリアージ・危機的事態にある患者の管理(家庭内暴力、性的虐待、児童虐待等)・創部管理
まとめ
マレーシアのEMSは非常に系統的に確立されており、都市部においてはよく機能しており、災害医療に関しては、国際派遣にも対応可能なチームの編成に向けた動きが進められている。
保健セクターの災害管理・対応体制についても、情報管理システムが確立されており、効率的に活用して派遣スタッフの調整等を行っている。
これらシステムの運用は、明確な計画とガイドライン、人材開発や施設整備に係る指標の設定に裏付
けられており、これから EMS を整備しようとしている周辺国にとっては、これらの政策実施を支援するための枠組みや目標設定には参考にできる要素がある。
*本記事は「ASEAN 災害医療・救急医療にかかる情報収集・確認調査ファイナルレポート」を参考に作成しています。
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