2022年3月14日の記事でご紹介した「ザンビアからのSOS]の続編です。
当時は世界中がコロナの影響で、渡航もままならない状況でしたので、彼等とまずはリモート会議を重ねて決定したことは、中心となる現地の指導者の育成をしようとなりました.
方法はいろいろ協議して、CERSメンバーの医師にITLSを隣国のタンザニアで受講してもらいました。当初はそのままザンビア国内でのコース開催を目指そうとなりましたが、その後の現地調査からザンビアでもファーストレスポンダーである消防士を対象にしたプランが、より効果的で継続可能であるとの結論に達しました。
そして、2025年9月、僕たちJPRメンバー4名でザンビアを訪れてきました。
今回は 「難しい話は抜き、実際どうだった?」 というカジュアル目線で、現地の消防・救急のリアルを紹介します。消防・救急に関わる人なら「え、マジで?」と思うシーンがけっこうあります。

ザンビア共和国での救急搬送は?
日本では119番をすると救急隊が現場に来てくれるのが当たり前ですよね。
でもザンビアでは、救急車=病院や診療所の所有物 という考え方が基本です。
その結果
- 交通事故が起きても、救急車が“現場に出動しない”ことがある
- 「現場での救命処置」よりも「病院までの移送」という役割が中心
となり、本来なら助かるはずの命が失われている現状があります。
ルサカ市消防本部:車両や資機材はあるのに動かない
首都ルサカの消防本部も訪問しました。消防車自体は複数台ありますが、実際には 稼働していない車両もある状態でした。
- 新設消防署は完成してるけど“配置できる消防車がない”
- 稼働中の消防車もメンテできない
- 出動体制が整わない
「形はあるけど機能しない」――そんな課題を多く感じました。



消防学校(Zambia National Fire Service Training School)の現場
ルサカから離れた場所にある、Zambia National Fire Service Training School(国立消防学校) も視察しました。
学生たちはとても元気で、訓練へのモチベーションは高いです。しかし装備面では、かなり厳しい現実があります。
- 防火服が足りない
- 手袋はない
- 空気ボンベの充填は、約150km離れた場所まで運ばないといけない
やる気は十分なのに、装備と環境が追いついていない――そんな印象でした。



多方面の行政機関との協議と対話
今回の訪問では、現場だけでなく、行政や関係機関とも意見交換を行いました。
- RTSA(Road Transport and Safety Agency:道路交通安全局)
- ザンビア警察
- 保健省
- 在ザンビア日本大使館
- ルサカ消防
- 国立消防学校
- JICAザンビア事務所
- 大規模災害管理局
どの機関も、交通外傷による死亡を減らしたいという課題意識は共通しています。
ただし「誰が」「どこで」「何をするのか」という役割分担や仕組みは、まだ十分に整理されていません。




JPRの提案:外傷教育プログラムで“救える命”を増やす
現状のザンビアには、外傷患者に対して
- 誰が現場対応のリーダーになるのか
- どの順番で評価・処置を行うのか
- どのタイミングで搬送するのか
といった 標準化された流れ(プロトコル)がほとんどありません。そこでJPRが提案しているのが、日本で培われた外傷初療の考え方+ザンビアの実情を組み合わせた教育プログラム です。
具体的には
- 現場の安全確認と状況評価
- 止血や気道確保などの優先順位づけ
- 搬送先や搬送手段の判断基準
- 消防・警察・RTSAなど関係機関の連携ルールづくり

これが進むと、何が変わるの?
この外傷初療プログラムが浸透していくと、次のような変化が期待できます。
- 交通外傷による死亡者数の減少
- 消防士が「救命の現場リーダー」として動けるようになる
- 病院到着までのケアの質が上がり、助かる命が増える
- 行政・医療・交通機関の連携がスムーズになる
単なる“知識の輸出”ではなく、ザンビアの現場に合わせた「仕組みづくり」 がポイントです。
ザンビアには “伸びしろしかない”
今回の視察を通して強く感じたのは、人の熱量は十分。足りていないのは、仕組みと装備。ということでした。だからこそ、日本の消防・救急が蓄えてきたノウハウが活きます。
JPRとしては、単発の支援で終わらせず
- 教育
- 体制づくり
- 関係機関のネットワークづくり
に軸足を置いた長期的なプロジェクト として、ザンビア支援を進めていく予定です。この記事が、「海外の消防・救急の現実」や「国際協力のかたち」に興味を持ってもらえるきっかけになれば幸いです。



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