第2章:救急現場では何を見て判断しているのか ― 脳卒中を例に ―
119番通報を受けて救急車が出動すると、次に行われるのが救急現場での緊急度判定です。
ここで多くの人が思い浮かべるのは、「救急隊がその場で病名を判断している」という姿かもしれません。しかし実際の救急現場で行われているのは、病名を決めることではありません。
救急隊が行っているのは、「今、この人はどれだけ急ぐ状態なのか」を見極める判断です。
救急隊が現場でまず見ているもの

救急隊が現場に到着して最初に確認するのは、「何の病気か」ではなく、今この瞬間に命に関わる状態かどうかです。
具体的には、
- 呼吸は安定しているか
- 血の巡りは保たれていそうか
- 意識ははっきりしているか
といった点を、短時間で確認します。
これは、119番通報のときに「会話はできますか?」「息は苦しくありませんか?」と聞かれていた内容と、本質的には同じです。
電話では声だけで、現場では目で見て、触れて。判断の軸は最初から最後までつながっています。
救急現場での判断には、総務省消防庁の全国共通基準がある
救急隊が現場で行っている緊急度の判断は、個々の経験や勘だけに任されているわけではありません。日本全国の消防本部では、総務省消防庁が示している「救急現場における緊急度判定プロトコル」という共通の考え方が用いられています。
このプロトコルでは、
- 呼吸の状態
- 血の巡りの状態
- 意識の状態
といった、命に直結する要素を中心に、「今すぐ対応が必要かどうか」を整理して判断するよう定められています。
救急隊は、病名を当てることよりも、このプロトコルに基づいて『今、この人はどれくらい急ぐ状態なのか』を判断しています。
そのため、救急現場での判断は全国どこでも大きくは変わらず、119番通報での緊急度判定とも
自然につながる形になっているのです。

なぜ脳卒中は「時間との勝負」なのか
ここで例として取り上げたいのが脳卒中です。脳卒中というと、「突然倒れる病気」という印象を持つ人も多いかもしれません。
しかし実際には、
- 片側の手足が動かしにくい
- 言葉が出にくい
- 片方の口角が下がる
- 今までにない激しい頭痛
といった、一見すると軽そうに見える変化から始まることもあります。
脳卒中で特に重要なのは、「いつからその症状が出たのか」です。治療の選択肢は、発症してからの時間によって大きく変わります。
そのため救急隊は、症状の内容と同じくらい「発症時刻」を重視しています。
同じ脳卒中でも、緊急度は変わります
たとえば、同じ「脳卒中が疑われる状態」でも、
- 意識がはっきりしていて、会話ができる
- 片側の手足が少し動かしにくい程度
という場合と、
- 呼びかけへの反応が鈍い
- 会話が成り立たない
- 呼吸の様子がおかしい
という場合とでは、緊急度は大きく異なります。
病名が同じでも、状態によって「今すぐ命に関わるかどうか」は変わる。これが、救急現場での緊急度判定の基本です。

救急隊は「診断」ではなく「判断」をしている
救急隊は医師ではありません。現場で病名を確定することはできません。
それでも、
- 今すぐ搬送すべきか
- どの医療機関に向かうべきか
といった判断は、現場で行われます。
これは、総務省消防庁の緊急度判定プロトコルという共通の基準に基づき、「今この瞬間に命を守るために何をすべきか」を考えた結果です。

119番から現場、そして病院へ
119番通報での緊急度判定、救急現場での状態評価、そして病院への搬送判断。これらは別々のものではなく、一本の線としてつながった判断です。
電話で拾われた情報は、現場での判断につながり、その判断が病院での治療につながっていきます。
次の章では、こうした一連の判断を支えている「PEMEC」という考え方について解説します。それは、救急隊が迷わず行動するための「判断の地図」のようなものです。
▶ 次回予告
第3章:救急の判断を支える考え方「PEMEC」とは何か?
次の章では、119番通報と救急現場で行われてきた判断を一つの考え方として整理した
「PEMEC」という判断の枠組みを解説します。



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