第2回 救急隊はどうすれば「無駄な電話」を減らせるのか

救急と緊急度判定

※本記事は、救急現場の実情をもとに一般向けにも読める形で解説しています。特定の医療機関・地域・個人を非難するものではありません。


はじめに|電話が増えるほど、時間は削られる

救急現場では、病院への連絡が一度で決まらないことがあります。

  • 電話をかける
  • 詳しく聞かれる
  • 結果的に断られる
  • 次の病院へ連絡する

このやり取りが続くと、現場にいる時間だけが確実に延びていく

ここでよく誤解されるのが、

救急隊の説明が下手だから時間がかかるのではないか

という見方です。

確かに説明の仕方で結果が変わる場面はあります。しかし、それがすべてではありません。

問題の本質は、「何をどの順番で伝えるか」にあります。


1. なぜ「最初から全部説明するほど断られやすくなる」のか

一見すると、「最初に情報をすべて出した方が、病院も判断しやすい」と思われがちです。しかし現実には、情報を盛れば盛るほど、断られる可能性が高くなる場面が少なくありません。

なぜでしょうか?

病院側は、

  • 本当に対応できるか
  • リスクが高すぎないか
  • 後から問題にならないか

を同時に考えています。

情報が多いということは、それだけ

  • 対応困難な要素
  • 判断を迷わせる要素

も増えるということです。

結果として、「できない理由」を見つけやすくなる

これは病院が冷たいからではありません。制度上、そう判断する方が安全だからです。


2. 救急搬送の判断は「説明力」ではなく「整理力」

救急隊に求められているのは、話術や説得力ではありません。重要なのは、情報をどう整理して出すかです。

救急隊が現場で集めている情報は、

  • 傷病者の状態
  • 経過
  • バイタル
  • 家族情報(背景)

など、非常に多岐にわたります。しかし、そのすべてが最初の病院連絡に必要なわけではありません


3. まず出すべきは「実施基準に直結する情報」

病院が最初に判断したいのは、

その患者は、うちが受けるべき対象かどうか

です。

その判断軸になるのが、各都道府県で定められている傷病者搬送・受入れの実施基準です。

したがって、最初に伝えるべき情報は、

  • 症候分類(意識障害、外傷、胸痛など)
  • 緊急性(今すぐ介入が必要か)
  • 専門性(一般医療か、高度医療か)

この3点に集約されます。

これが明確になるだけで、病院側の判断速度は大きく変わります。


4. 「個人の感覚」ではなく「基準の言葉」で話す

病院が最も警戒するのは、

救急隊員個人の経験や印象だけに基づく説明

です。

そこで重要になるのが、基準ベースでの言語化です。

悪い例「見た感じ、かなり重そうです」

良い例「実施基準上、〇〇分類に該当します」

この違いは大きい。

後者の場合、判断の主体が

  • 救急隊個人 → 制度

に移ります。

病院側にとっても、制度判断を正面から否定する形になるため、対応が変わりやすくなります。


5. 質問されたときの「答え方」にも順番がある

病院から質問を受けたとき、すべてに同じ重さで答える必要はありません。

質問には、実は3つのレベルがあります。

  1. 実施基準に直接影響する質問
  2. 受入可否の最終判断に必要な質問
  3. 参考情報としての質問

3番まで丁寧に答えていると、通話はどんどん長くなります。

まずは1番と2番を明確にする。それだけで、「判断が先延ばしになる電話」は減ります。


6. それでも断られるときに大切なこと

どれだけ工夫しても、断られる場面はあります。そのときに重要なのは、感情ではありません。

「記録」です。

  • どの基準に該当すると伝えたか
  • 何が理由で不可とされたのか

これは責任逃れではなく、次の判断を守るための根拠です。

結果として、救急隊員個人を守り、組織を守ることにもつながります。


7. 一般の方に知ってほしいこと

病院探しの電話が長引くと、

何をしているのか分からない

と感じられるかもしれません。しかしその裏では、

  • どこなら確実に治療につながるか
  • 無理な搬送にならないか

を、制度の中で慎重に探しています。

迷っているのではなく、選び間違えないようにしているのです。


おわりに|電話を減らすことが目的ではない

救急隊の目的は、電話の回数を減らすことではありません。傷病者を、最も適切な医療につなぐことです。

そのために、

  • 情報を整理し
  • 基準で語り
  • 判断を制度に委ねる

この積み重ねが、結果として「無駄な電話」を減らします。

次回は、「救急救命士を目指す学生に“きれいな救急医療”だけを教えてはいけない理由」をテーマに掘り下げます。

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